記憶の対位法(高田大介/東京創元社)

以前、『エディシオン・クリティーク』を紹介した際に著者の名前を知り、『図書館の魔女』シリーズにも興味を持った。しかし、あまりの分量に気後れしてまだ手をつけられず、まずはもう少し肩の力を抜いて読めるものを、と思い手に取ったのが本書だった。
舞台は現代フランス。主人公は地方紙の事件記者で、通称「ジャンゴ」。物語は、彼がイスラム系移民が集うカフェで「裏切り者」と呼ばれる場面から始まる。ジャンゴ自身はイスラム教徒に共感を寄せているつもりだが、その思いは当事者には届かず、むしろ距離を置かれてしまう。
そんなジャンゴが、ナチス協力者とみなされ隠棲していた祖父の家を訪れ、古本の山と二十余りの黒檀の小箱を見つける。ここから物語は、フランス社会が抱えるテロの問題や移民コミュニティの複雑な事情を背景に、小箱に秘められた意味を探る過程へと進み、同時に音楽史における対位法の発展過程をたどる知的な旅へと変わっていく。
読み進めるうちに、差別と偏見、歴史と真実の関係について深く考えさせられる。そして、終盤に至ってようやく、タイトルが示す「記憶の対位法」という言葉が、物語の構造そのものとして鮮やかに輪郭を持ち始める。
登場人物はいずれも個性が際立っているが、特にジャンゴの探索を導く大学院生のゾエと、同級生であだ名が「電話帳」の人物が魅力的だ。
作品全体を包む空気には独特のものがある。言語学や歴史への深い造詣、そして知的な語り口は、どこかウンベルト・エーコの作品を思わせる。
余談だが、読み始めた頃、読者になっているブログでちょうど本書が紹介されているのを見かけた。その偶然に背中を押されたような気がして、最後まで読み切る励みになった。





