
ぼくはあと何回、満月を見るだろう(坂本龍一/新潮社)
スタイリッシュなタイトルに惹かれ、「教授」のエッセイを読んでみるのも悪くない、と思ったが、それほど軽い内容ではなかった。
著者には、57歳になった頃までの活動をまとめた『音楽は自由にする』という自伝がある。この本は、それ以降の自伝ということになるが、書かれたのは、がんで余命宣告された後の2021年以降である。つまり、残された時間を意識しながらこれまでの人生を振り返る、その作業の記録を読むことになる。
氏の特別なファンではなかったが、少し年上の、いつもカッコいい人だった。東京で大学生をしている頃、銀座のデパートでバイトをしていたが、開店直後に「ライディーン」が流れていたのを思い出す。その後、あっという間に世界的な音楽家になっていった。
音楽を中心とする幅広い活動と世界に広がる交友関係については、ただ驚嘆するのみ。自伝がこれほど読みごたえがあるのは、(ある意味で闘病記でもあるのに)すごく楽しそうに生きているからか。
口述筆記に関わった鈴木正弘氏が「あとがき」の中で「明晰な精神」という言葉を使っている。氏をよく表す言葉だと思う。そして、いささかの言葉を添えるならば、「自由な魂」という言葉を贈りたい。